考えさせない教育

昨今の過熱気味の教育ブームは、比較的経済力があり、自信家で自己主張が強く、自己の利益保全に熱心な親が、その中心をなしていると考える。

この手の人間は声が大きく、また、現政権と癒着した教育産業のお得意様であるため、現政権と利害が一致していることから、その主張が採用されやすいし、特権意識が強く、まさに、現政権を支える重要な票田なのだろう。

東京都の例では、ごく僅かな定員しかない進学指導重点校や私学をまねた受験特化型の中高一貫校を矢継ぎ早に指定、あるいは、設置し、上記特定の社会階層への偏向的サービスを開始した。

受験の成功を目指した進学指導重点校の実績は、お手盛りの宣伝によって大成功のように報じられ、また、一部教育産業とつながったマスコミも、これをヨイショする始末だ。

東京都の場合、H高校をかつてのブランドイメージの力を借りて(半世紀以上も前のこと!)、受験特化政策(都立高校改革と呼ぶらしい)の旗頭として、大幅な難関大学合格者増を画策した。

その結果、確かにH高の合格者はいくらかは増加したが、その周辺の上位校(R高、K高など)は進学実績が低落した。つまり、地域教育の中核となる学校の破壊である。

現職の知事とその取り巻きは、破壊好きらしい。

この種の手合いは、革新的なふりをして、実は他人のすること、あるいは、既成のものが嫌いで、自分がやったことしか受け入れないという、極めて狭量(ケツの穴が小さい)な性格である。

だからこそ、自己宣伝のために、税金を無駄遣いして、無意味で内容のないことをやらかすのだ。

東京都の政策は、受験適応型の子供をH高に集約しただけであり、都立全体から見たら、ごく少数のH高関係者のプライドを満足させるだけの結果であり、学校の指導力や教育力が有効に機能したとはとても言えない状況である。

にもかかわらず、社会の階層化と、上位階層だけを優遇する現都知事の偏向的思想を色濃く反映した公教育改悪は、見直されるどころか、さらにエスカレートする様相である。

塾通いを奨励し、公教育の中に、平気で予備校や塾を導入するという、進学実績を大宣伝する昨今の私立高校と同じ政策を選択した東京都には、もはや、教育とは何か、公教育の使命を理解する者は皆無である。

今後、現職の知事が居座り続ける限り、教育=特定階層へのサービス=難関大学への合格という図式だけだ暴走し続け、上に述べた、精神的田舎者であるごく少数の親と子供のプライドを満足させ続けることだろう。

その陰で、学力不良校の廃校と定時制高校の統廃合が進められている。

定時制高校の使命は、かつてのように、経済的に苦しいので働きながら勉強するというものから、個人の考え方、適性、社会環境から、定時制を選択するという時代に変化してきた。

ところが、このところの不況で経済的に就学困難な子供たちが増加し、定時制高校への進学を選択する例が急増している。

東京都が、定時制高校を廃校し集約したため、以前なら地域の定時制に終業後、短時間で通学できたものが、時間をかけて通学しなくてはならず、通学の不便さが、さまざまな負担を強いることとなった。

ここでも、地域単位でより良い社会を構築するという思想が欠落した政策と、バカのひとつ覚えのような経済効率を錦の御旗にした改悪により、地域の教育が崩壊するという事態が起こっているのだ。

地域性を破壊する教育政策を強引に推し進めた結果、その教育組織で育った子供たちが、自分の生活の場を省みることが出来ない、といった偏った社会観しか持てないのでないかと、危惧するのである。

しかし、この偏向的社会観は、中央集権化による独裁的支配(現体制)に巣くう者にとってはまことに都合のいいものであり、現政権とそのシンパの真の狙いは、その辺にあるのではないかと考える。

真のエリート教育などと、現実を無視した絵空事を経営目標に掲げている教育組織(学校)があるが、その真の目的は、中央集権的支配体制に迎合した人間の育成ではなかろうか。

いまだに、格差社会、つまりコイズミ的社会を目指す集団が健全である日本において、果たして真の民主主義を実現できるか、大いに不安ではある。

教育を土建、利権政治に都合のいいように構築しようとした、あるいは、構築した現政権の野望を打ち砕き、自分の頭で考えることに出来る国民を育成する教育に、大転換するときである。

社会に目を向けさせない、一番簡単なことは、オウムよろしく、知識(情報)を詰め込み、反復練習させるという、考えさせない教育である。

いままさに、その方向に教育が舵を切りつつある。

考えさせない、利己的な教育が、いかに地域を壊し、社会を荒廃させるか、現在の日本の状況を見れば、もう実証は十分であろう。

追記:

H高と伏せ字にしたのは、この都立でありながら、新興私立進学校を真似ている学校の関係者と名乗る者の中に、ネットを使って、異常な学校宣伝を展開する者がいるからだ。

たぶん、日常的にネットを監視して、気に入らない記事に、あらゆる手段を使って(私の経験した例では、2ch上で、私と母校の都立高校を侮蔑した)、H高の宣伝工作をしているようだ。

あわれ、としか言いようがないが、心あるH高関係者は、学校の名誉のため、早急に是正すべきと考える。それとも、容認しているのか?