定員増

医学部の定員増が認められた、そして、ある程度の増員をするとの通知があった。

医学部の教員としては、厄介だなあ、という感想だ。

増員分、教育に時間を割く必要があるからだ。

予算措置や関連部門、病院、との関係が十分調整できていないのに、医師不足=定員増、という単純な図式が、まかり通るのは、問題だ。

医師不足の背景には、研修義務化と、医師の偏在が大きな要因と考える。

最近、進学校を標榜している高校では、医学部に何人進学したかを競い、それを、優秀さの証明のように、盛んに宣伝している。

競争のあるところ、試験である程度の客観性を持って選抜することは致し方ないが、受験勉強で、高得点が取れることと、医者の適性とは、全く別であることが、置き去りにされている。

首都圏を例にとってみると、医学部に多くの進学者を出している高校の生徒は、首都圏出身者だろう。

地方の、旧国立の医学部に進学しても、終了すれば、首都圏で研修するという例が目立っている。

地方の旧国立の医学部は、いかに卒業生を引き留めるかで、四苦八苦している。

そのため、目玉となる医学教育に、一生懸命取り組んでいる。

教員研修で、そのいくつかの例を紹介されたが、ほんと、必死である。

卒業生が残ってくれなければ、大学病院の運営に支障が生じ、結果として、魅力のない医学部のレッテルを貼られてしまいかねないのだ。

以前も同じことを書いたが、思い切って、地域限定の、入学枠を設け、残ってくれる人、あるいは、残らなければならない、といったような、いささか強圧的な対応も必要かもしれないし、地域限定の枠は、すでに実施されているところもある。

しかし、例え、定員を増やしても、何も抜本的な改革がなされていないので、医者の偏在は、解消されるとは思えない。

人は、自由であるべきで、職業選択の自由、居住の自由など、医者だからと言って、制限されるのは問題であるが、とくに、その多くを税金に頼っている旧国立大学の医学部が、何らかの強制力で、医者の偏在に歯止めをかける措置を考えなくてはならない事態かもしれない。

もし、この措置を実施すれば、辺鄙な所にある医学部は、さらに人気を失うだろう。

でも、それでも医者になりたい、という若者に期待するのは、いけないことだろうか。

医学は、高度な数理的な能力を、必ずしも必要としていないし、受験秀才である必要は全くないのだから、気概のある、地道な努力の出来る、医者の適性(実はこの評価が一番むずかしい)を備えた人に対して、その門戸を拡げれば、少しは、医者の偏在にプラスになるように思えるのだが。

ただ、この強圧的措置で、医学部の階層化(今でもすごいのに)に、さらに拍車がかかる危険性がある。

空想に空想を重ねたことを書き綴ったが、ほんとうに医者になりたい人、適性に溢れた人を、なんとか拾い上げたいと、医学部の教員は、心底思っているのだ。