「塾は禁止」野依発言再び

教育再生会議で、分科会の座長を務めるノーベル化学賞学者の野依さんが、「塾(進学塾のことらしい)は禁止にしたらいい」と、発言して、物議をかもしている。

依然、このブログでも、氏の発言を取り上げたことがあった。

インターネットを徘徊してみると、氏の発言に対して、厳しい意見が多いように感じた。

野依さんは、現在の教育の諸問題について、小学生から始まる受験勉強にその原因を求めようとしている。

氏の本当の意図はわからないが、象徴的な意味で、中学受験を目的とした、いわゆる進学塾を、攻撃目標として、あげているのかもしれない。

氏は、以前、受験勉強に代表されるような、知識を単に詰め込み、それを運用することだけに習熟する教育を進めることによって、対象物をじっくり観察し、何かを発見するという、機会が奪われている、と主張していた。

この初等教育を取り巻く状況に関する野依さんの危機感は、私も、共感できる点もある。

とはいっても、知識は、正しく教えられなくてはならないし、その運用にも、訓練が必要だ。

それは、初等教育において、極めて、基本的かつ重要なことだと考える。

野依さんも、それは十分に承知しているはずだ。

その上で、氏は、過度に知識を詰め込み(何が過度か、人によって意見が異なるからやっかいだ)、安直に、答えや解法を暗記させるという、受験テクニックに走ることを批判しているのではないだろうか。

過剰な知識の摂取と運用の習熟にかける時間を、自発的な学習に振り向けて、自分で何かを発見するという感動を体験してほしいと考えているのではないか。そこには、自然科学者的な発想を強く感じる。

教育再生会議が非公開なので、野依さんの真意は、わからないが、氏の、一見、過激かつ人権侵害とも思える発言の裏には、教育の本来の姿を見いだそうとする、強い思い入れが感じられる。

ただし、氏の考えている理想的な教育を実施するには、それこそ、国家プロジェクトとして、莫大な投資を行う必要がある。

教員を増やし、教員を優遇し、その能力開発を、国が責任を持ってやらなければ、野依さんの目指す教育は、実現不可能だ。一部の生徒を対象にした進学塾を潰したところで、教育の諸問題が解決できるはずがない。

教員免許を更新制にするなど、圧力をかけることが良い方向に向かうとは限らない。それに加えて、しっかりとした教員支援体制が必要だ。

奨学金などの、就学支援体制の充実も、お願いしたい。政治色の強い、あやしげな研究に莫大な研究費を配当するより、やる気のある子供の就学を支援して欲しい。

教育再生は小手先で出来るものではない。国の将来をかけた、大プロジェクトであるべきだ。

現政権は、教育再生が、ポーズだけでは済まされないほどの大問題であることを、自覚しているだろうか。