切ない思い出

今でも思い出すと少し切なくなる女の子がいる。1年後輩の、Hさんのことがいつまでも心に残っている。

当時、彼女にハッキリとした恋愛感情を持ったことはなかったと思う。でも、何かの拍子に彼女のことが思い出される。好きだった子ではなく、なぜか、Hさんのことを。

Hさんの思い出は、中途半端に終わった部活と結びついている。所属していた○○部に彼女が入部してきたとき、私は「かわいいな」と素直に思った。2年生になっていた私は、部活のあり方に疑問を持っていて、部活を続けていく気力を失っていた。夏前だったと思うが、顧問の先生に相談してみた。その時、顧問の先生に言われたことが今でも強烈に心に突き刺さったままでいる。先生は、せっかく築き上げた仲間との友情や信頼関係を捨てることになること、そして、この先も、簡単に人との関係を断ったりするようになるのでは、と本気で心配してくれた。結局、自分の考えを押し通し、私は、○○部を退部してしまった。何であんなに意固地な考え方しかできなかったのだろうと今では思う。他の人を思いやる気持ちが欠けていた。そして、きちんと向き合わなければならない大切なことから逃げたと言えるかもしれない。

○○部を退部して、私はHさんとの接点がなくなってしまった。その頃の私は、同級生の女子が気になっていたので、Hさんのことをちゃんと見ていなかった。Hさんの視線を強く感じたときが何度かあった。Hさんが、私のことを気にしていたと、彼女に近い人に教えられたことがあった。また、しばらくして、ある男子と付き合い始めたという噂も耳にした。

浪人時代、新小岩の駅の薄汚れた通路で、高3の彼女とバッタリ会った。浪人し、予備校生になっている自分がはずかしくて、あまり言葉を交わすことが出来なかった。彼女は私がある大学に行っているものと誤解していた(後に本当にその大学に進み、今の人生を決定づけることとなる)。彼女に浪人していることを告げたが、それ以上言葉が続かなかった。彼女は私を見つめていたが、私は黙ったままだった。少しの沈黙の後、受験を頑張るよう彼女に言って、逃げるようにその場から離れた。ちょっと歩いてから振り返ると、駅の階段を上がっていく小柄な彼女の後ろ姿が目に入った。何か大切なものをなくしたような気がして、とても切ない気持ちになった。

Hさんについては、私が勝手な思いを膨らませているだけだが、あまり接点がなかったからこそ、忘れられないのかもしれない。今、どうしているのだろう。活発で、笑顔のすてきな女の子だった。