STAP細胞の周辺

iPS細胞に代表される多能性幹細胞の作出とその臨床応用は、生命科学研究の中心命題ともいえるほど、注目の的である。
 
発生学研究室の出身にもかかわらず、再生医療にはほとんど関心のない者なので、全くフォローしていなかったのだが、ごく最近、STAP細胞、という新手の多能性幹細胞の作出が、Nature、という権威のある科学雑誌に掲載され、それが若い日本人女性研究者の仕事だったりしたもので、報道も相当過熱していた。
 
研究者の名前は、小保方晴子さん、である。
 
この報道に対する第一印象としては、驚き、だった。
 
その理由は、酸性の液に30分ほど漬けるだけで、簡単に細胞の初期化(多能性幹細胞化)が出来るという衝撃的な、とても信じられない、内容だからだ。
 
この報告が公開されるや、世界中で追試が行われたが、作出方法が最重要な点にもかかわらず、その記載が不十分だったせいか、だれも再現できない、という状況にある。
 
小保方さんが所属する理研(神戸)では事実の検証と詳細なSTAP細胞作製法の公開を進めているようだが、一研究者としては、どうもスッキリしないものを感じる。
 
その理由の第一は、論文の作成における、信じられないような、初歩的なミス、だ。
 
STAP細胞を使って作出したネズミの胚(胎児)の画像の出所が不透明であったり、使い回し、が疑われるという点である。
 
その他、いくつかのデータで、その改ざんの可能性が指摘されているが、真実は闇の中である。
 
小保方さんがどのような研究組織にいたのかは知らないので軽軽なことは言えないが、このような重大事実を論文にするときには、最大限の注意を払って実験し、論文をまとめる、というのが、よくトレーニングされた、良識のある研究者の常識だと私は考える。
 
彼女の共同研究者の一人は、些細なミス、と言い放ったが、そんな初歩的なミスを犯す人物の研究を信じろ、と言われても、私は二の足を踏む。
 
その米国の共同研究者自体も、果たしてプロフェッショナルなのか、私には疑わしい。
 
小保方さんの研究歴を見て心配に思ったことは、彼女は、母校から派遣される形の、外研、で再生医療関係の研究を始めて、途中、米国留学をはさみ、理研の研究者に採用される、というキャリアの持ち主のようだが、私の引っかかる点は、出入りの多い彼女の研究歴において、研究者としての倫理観や哲学をキチンと教育した指導者が果たしていたのだろうか、ということだ。
 
時流に乗った研究は注目度も高いし、研究費も、そして、ポストも得やすいとは思うが、そんな派手な流れの中で、彼女がキチンと訓練されたか、どうも引っかかるのである。
 
自分の研究者としてのキャリアを振り返ると、以前、この道に入った経緯を記事にしたことがあるが、確立した哲学を持った研究者に指導されたことが、すべての基礎となっていると思えるのだ。
 
真実はそのうち明らかになるだろうし、STAP細胞の可能性を信じたいが、例え事実としても、それを人類の共有すべき英知として世に出す過程が、あまりに稚拙で、vague、であるため、この研究に関係した者たちの資質に、不満と疑問を抱きたくなってしまうのである。
 
STAP細胞の作出方法が実際は難しく、かつ、確率が低くてもいいではないか、ごくマイナーなニセ多能性幹細胞の誤認でなく真実であることを祈る。
 
☆私の個人的印象ではなく、専門家、によるSTAP細胞とSTAP幹細胞の評価を知りたい方は、以下に示す慶応の吉村先生のブログ記事をお読みいただきたい。