中枢神経系

中枢神経系に作用する薬物は、その作用機序に関して、一見、もっともらしい解説がされていますが、全てが分かっているわけではありません。

例えば、抗うつ薬のようなメジャートランキライザーは、個人によって、その効果が千差万別です。

ある人には、効いて、ある人には、副作用だけ強く出て、全く効果がない、ということもあります。

だからこそ、精神科医は、薬物の種類、投与量、組み合わせなど、試行錯誤の毎日を過ごしているのです。

神経系に関する研究データの蓄積は急ピッチで進んでいて、決して、その前途は暗いものではありませんが、安直に、薬の効能を論じるのは、危険です。

精神活動を司る中枢神経(脳)は、まさに迷宮です。

人類が、今できることは、本来脳内にある物質の量を、調節して、なるべく健康な状態に近づけるということです。

それとて、脳内物質の定量が簡単に出来るわけではないので、投与されたひとの状態から効果を判断して、ということになり、科学的のようで、科学的でない、ということになってしまいます。

加えて、脳の機能は、多くの物質によって維持されており、一つをいじくったからすぐに効果が出るという単純なものではありません。

簡単なモデルでいうと、セロトニンという脳内物質の不足が、落ち込んだ気分の原因となると説明されていますが、セロトニンを増やしてやることで、落ち込んだ気分を改善できる、と考えるわけです。

私が学生の頃は(30年以上前)、セロトニンが精神の安定に関与すると言われ始めていました。

現在では、セロトニンを選択的に増やす薬物が開発され、臨床に応用されるようになりました。

SSRIという一連の薬物が、それです。SNRIというのもありますね。

SSRIを投与しただけで、落ち込んだ気分がスッキリするかというと、そう簡単ではありません。

ある人は、スッキリした、活力が出た、と大喜びですが、全く効かないという人もいます。

薬の効果の個人差を、体質といって、諦めているのが、現状です。

精神活動は、確かに、様々な脳内物質により制御されていますが、果たして、単純な物質と物資の相互作用だけで、精神活動が説明できるとは、信じがたいのです。

私は、非科学的といわれるかも知れませんが、もっと高次な、単に物質論では説明できない精神活動を制御するものが存在しているのではないかと、考えます。

頭の中はまだまだ迷宮です。

若い人には、ぜひ、この迷宮の謎の解明に挑戦してもらいたいです。

その時、単に物質論に終始した従来の研究手法ではない、違ったアプローチを試みて欲しいのです。

私には、そのアプローチのヒントは、東洋思想の中にあるように思えるのですが、どうでしょうか。