好きだった女子(その1)

女子高生ということで思い出すのは、当時好きだった女子のことだ。彼女は入学当初から気になる存在だった。温かな雰囲気を持った、優しげな顔立ちで、頼りがいのあるしっかり者だった。とても賢い人だったと思う。一年時の夏の合宿(小諸の菱野山荘)でダンスを踊ったときは、つないだ手の柔らかな感触が心地よく、心臓がドキドキした。

当時の私は、努めて禁欲的に振る舞い、やせ我慢をしていた。女の子とイチャイチャするなんて、とんでもないことだった、本当はそうしたかったのに。女子との交際に熱心な男子もいたが、少なくとも、私のまわりにはそんな浮いた話はなかった。彼女を遠くから眺めながら、手も出さず、3年間が過ぎた。すごいやせ我慢だ。

そして、いつの間にか、卒業式の日となった。式が終わり、卒業証書を手に、正門のところまで出てきたとき、彼女がある男子をご両親に紹介しているところに出くわした。その光景を見た私は、一瞬のうちに、すべてが理解できた。私は振り返って、その様子をほんの少しの時間見ていたが、すぐに前をむき、正門から3年間通った高校を後にした。その時のことは、今でもハッキリと思い出すことが出来る。

当時の私は大学受験に失敗し、やっとの思いでつかんだ奨学金の受給資格も失い、すべてに自信がなかった。次の年に、大学に進学することで頭がいっぱいで、女の子のことを深刻に考える余裕がなかった。この頃の私は、悲観的にものを考えることが少なかったので、こんな最低な状況でも、なんとか壊れずに済んだのかもしれない。いや、現実を正しく認識していなかっただけかもしれない。