形態学的研究と分子遺伝学的研究の相互補完

生命科学をやっている者として、形態学的観察により得た知見と、生物自体や、その細胞をすり潰して抽出した遺伝子の配列から得た情報が、一致するか、ということを常に意識している。
 
ある生物種においては、形態的な違いあるにもかかわらず、遺伝子情報からは同種であるというものがいる。
 
こういう場合、研究者間の論争に発展するのだが、昨今では、遺伝情報、に基づく分類が優勢となりがちではなかろうか。
 
日本に生息するメダカは、分子遺伝学的には2種存在すると言われてきたが、それらは形態学的にも明確な違いがあり、キチンと2種に分類できるのか、ずっと決着がつかないままだった。
 
で、いささか泥臭い研究ではあるが、近大の大学院生が、日本中を調査してまわり、日本産メダカを代表するオリジアス・ラティベスとは、形態学的にも明確な違いがある、北日本集団を構成するメダカを発見し、オリジアス・サカイズミ、という種名をつけるという快挙を成し遂げた。
 
快挙である、最近の若者の多くは、分子生物学的な研究を志向する傾向がとても強く、形態の観察やフィールドワークなど、地味で手間暇のかかる研究にはあまり興味を示さないように思える。
 
私は、目に見えることがすべて真実とは限らない、とは思うが、遺伝子万能的な論法にも抵抗感がある。
 
形態と遺伝子、どちらをどれくらい考慮して生物種を分類していくかは、確立した、コンセンサスのある手法に従うべきだが、それとは別に、生物学には、数理的な解釈より、ロマン、があった方が、楽しく思える。
 
研究にはロマンがなくてはいけないと思うのである。
 
今回の、近大の大学院生は、きっと、メダカに果てしないロマンを感じているのだろう、なんとも魅力的な人間ではないか!
 
研究の多様性と柔軟性を維持するためにも、こういう研究者を大切にして欲しいものである、バリバリの分子生物学者ばかりでなく。
 
以下に、このメダカの新種発見に関する記事を引用する。
 
 
引用、ここから。

 
国内にメダカ2種類 近大大学院朝井さん(白浜出身)証明
 

http://www.agara.co.jp/modules/dailynews/newsphoto/2328021.jpg

 近畿大学(本部・大阪府東大阪市)は4日、和歌山県白浜町出身で、近大大学院農学研究科博士課程3年の朝井俊亘さん(33)が、これまで1種と考えられていた国内のメダカが2種類いることを証明したと発表した。

 これまで、日本に生息するメダカは、酒泉満・新潟大学教授によって分子遺伝学的には青森県から京都府日本海側に分布する「北日本集団」と、そのほかの地域の「南日本集団」に大別できることが分かっていたが、形態的特徴で分析する実証がなく、学術的には「オリジアス・ラティペス」1種だと考えられてきた。
*上の写真参照、上がオリジアス・ラティベス、下が北日本集団のオリジアス・サカイズミ、いずれもオス、朝井さん提供

 朝井さんは、3年ほど前から、全国の川や湖沼、ため池など50カ所以上でメダカを採集し、600以上の標本を作って分析。その結果、オリジアス・ラティペスは南日本集団にあたり、北日本集団は南日本集団に比べると、雄の背びれの切れ込みが小さい▽うろこが網目状に黒っぽい▽体側後方に不規則な黒い斑点がある―などの特徴があり、別種だと証明した。

 それ以前に、朝井さんと同じ研究室の大学院生が、北日本集団と南日本集団の分布域がぶつかる京都府由良川水系の調査で、交配せずにそれぞれが独自集団を保っていることも確認しており、そのことも別種と判断する要因だという。

 朝井さんは、北日本集団の学名を酒泉教授の姓名から「オリジアス・サカイズミ」と名付け、昨年12月にドイツの学術誌に発表した。

 朝井さんは田辺高校、近畿大学水産学科を卒業後、近大付属新宮高校で理科教諭を務めたが、2008年に近大大学院に進学。研究を続けている。朝井さんは「今回、新しい種として区別でき、学名を付けられたことはうれしい。今後はアジア各地での分類学的調査を進め、日本のメダカの進化の過程を解き明かしたい」と話している。